負け犬の物語。イーグルvsシャーク

 

ブコメと聞いて、あなたはどんな作品を思い浮かべるだろう。

 

ブコメといえば、

容姿に恵まれた主人公2人が運命的な出会いを果たして、

トラブルとすれ違いを経て、

最後には絶対に結ばれて、めでたしめでたし。

 

絶対にあり得ない世界の話だとわかっていても、

絶対に2人が結ばれることをわかっていても、

ちゃんと泣くし、笑うし、憧れる。

 

これから紹介したい作品は、それらのいわゆる"王道ラブコメ"とは一癖も二癖も違う

 

きっと、

 

そんな"よくあるラブコメ"の世界では絶対に描かれることがない負け犬2人のロマンスである。

 

 

イーグルvsシャーク (2007)


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近年ではマイティ・ソージョジョ・ラビットなどでおなじみ、タイカ・ワイティティの長編監督デビュー作。

 

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バーガーショップで働くリリーは、毎日12時ぴったりにやってくる謎の青年ジャロッドにひそかな好意を抱きながら、彼の注文をとるだけの日々を送っている。

 

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いつも通りの平凡すぎるある日、ひょんなこと(!)から、リリーはジャロッドの主宰する動物なりきりパーティーに誘われる。

 

そんなこんなで徐々に距離を縮める二人の元に、ジャロッドの高校時代をめちゃくちゃにしたといういじめっ子同級生が刑務所を出所したというニュースが届く。

 

長年彼への復讐を夢見ていたジャロッドは、故郷に帰ることを決意する。

そんなジャロッドを愛するリリーも、もちろん彼について行くことを選択する。

 

そして、定職もお金も友だちもいないふたりの、ふたりだけの小さな挑戦が幕を開ける。

 

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30代を目前に控え、互いに自分の居場所を模索する孤独な恋人たち。  

 

リリーの前だとめちゃくちゃイキっちゃうジャロッドと、

そんなジャロッドの、こちらから見たら死ぬほど痛くてダサい一面にも首ったけなリリー。

 

不器用で、だけど可愛くて、どうしようもないほど負け犬な2人の、どうしようもないほど素敵な恋の物語。

 

過去のコンプレックスからなかなか自分自身をうまく愛せず、前に進むことも、一歩後ろに引くこともできなくなってしまったジャロッド。

そんな彼が"復讐"の先にある小さな一歩を踏み出した時、なんとも言えないあたたかい気持ちにさせられる、魔法のような作品だった。

 

 

ちなみに監督のタイカ・ワイティティはジャロッドの亡き兄役として出演(写真や回想シーンなど)もしてる。

ニュージーランドが舞台なので、独特な訛りのある英語がなんとも心地よくて、もっとこういう作品が見たいなあと思わされる。(この後に製作されたboyという作品もニュージーランドが舞台で、そちらも最高だった。)

 

独特なタッチが可愛いしシュールなコメディ要素もあるので、ウェス・アンダーソンの作品やナポレオン・ダイナマイトが好きな人は絶対好きだと思う!ほんっとうに可愛い作品。

 

視聴方法はDVDを取り寄せるか、レンタルするしかないのだけど、サブスク戦国時代の今、簡単にありつけない作品にこそ見る価値があるのかもしれない。

 

 

 

きゅんってする映画。ナイト・オン・ザ・プラネット

 

突然だけど、あなたはタクシードライバーと会話する派ですか?

 

 

それとも、一切しない派?

 

 

私はどちらかというとしない派。

全くの他人(しかもだいたいおじさん)と車内で2人きりだし、話題だって大してあるわけじゃないから、積極的にコミュニケーションとろうなんて思わないよね。

 

 

まあ、あなたが話す派にせよ話さない派にせよ、これから紹介する作品「ナイト・オン・ザ・プラネット」は、そんなありきたりなタクシーの車内を描いた作品。

 

 

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1991年、スマホのない時代。手持ち無沙汰なのは煙草でごまかす時代。舞台はロサンゼルス、ニューヨーク、パリ、ローマ、ヘルシンキ。5つの異なる土地で、同じ日の夜にタクシーに乗った乗客とドライバーのやり取りだけを切り取ったオムニバスストーリー。

 

 

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整備士を夢見る若き運転手×ビバリーヒルズに住む金持ちスカウトマン

カタコトの英語を話すドイツ人運転手×ブルックリンに住む黒人青年

コートジボワール移民の運転手×盲目の女性

おしゃべり達者(うるさいほど)のおじさん運転手×神父

寡黙な運転手×酔っ払いおやじ3人組

 

 

どこが舞台でもそれぞれのコミュニケーションの形があって、タクシーに乗っているほんの20分ほどのやりとりなのにそれぞれのバックグラウンドが手にとるようにわかる。

 

 

そして、ふつうならきっと一生交わることのないであろう世界に住む二人が、その瞬間だけ通じ合う。その通じ合っちゃう感じや、逆に噛み合ってないやり取りにも、なんとも言えずきゅんとする。恋愛のきゅんじゃなくて、ほっこりする方のきゅん。

 

 

どのキャラクターも、客を乗せるまで、タクシーに乗るまでは予想もしていなかっただろう出会いから起こる小さな出来事ぜんぶが愛おしく感じてしまう。ちょっと笑えたり、優しい気持ちになったり、イラッとしたり。

 

 

私はこの映画を見終わったあとすぐに乗ったタクシーで、さっそく運転手のおっちゃんとおしゃべりしちゃった。話題はコロナとオリンピックというザ・世間話だったけど、そんな会話も楽しもうとすればそれなりにいいもんだなあと思えた。

そんなただの日常を特別に感じさせてくれる映画っていいよね。

 

 

夜が舞台の映画だから、夏の夜にゆったり見てほしい。

そして見終わった後は、どのエピソードが好きだった?なんて話すのも楽しい。

 

ちなみに私のお気に入りはニューヨーク。今まで見た映画の中でも上位に食い込むくらいに好き。

 

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ニューヨークに出てくる2人。帽子がたまたまお揃いだ!ってなるシーン。(なんで後部座席じゃなくて助手席に座ってるの?って思った人は本編を見てね。最高だよ。)

 

 

はっきり言って、この映画の監督ジム・ジャームッシュの映画って退屈だ。

退屈だって言い切ってしまうと語弊があるけど、お洒落なんだけどなんだか眠たくなりそうな雰囲気の作品が多くて、家で見たら確実に寝ちゃう!と避けていたんだけど。

 

 

そんな中始まった「ジム・ジャームッシュ レトロスペクティブ2021」(都内のミニシアターでジム・ジャームッシュ監督の過去12作品特集上映)が、私にとって彼の作品を見る大きなチャンスだった。企画してくれた人ありがとう!

 

 

上映館も徐々に増えてるし、U-NEXTでも見られるのでぜひ!

私もこの夏の間にもう1回は見返す予定。

人生の話。LIFE!

 


ずっと、大人になんてなりたくないって思っていた。
23歳になった今でも、心は18歳で止まっているし、未だに大人にはなりたくないと思っている。

だって大人になるっていうことは、社会の縮図の一部になって、わがままばかり言ってられないし、本音と建前とか、責任感とか重圧とか、よくわからないけど大変そうだから。
まず働きたくないし。
一生大学生でいたいよね。
 
 

これから紹介する映画「LIFE!」の主人公・ウォルターだって、そんな社会に揉まれてつまらなくなってしまった大人のうちの1人なのだと、物語の冒頭ではそう決めつけていた。
 
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出版社の写真管理部で働くウォルターは、毎日ただ与えられた仕事をこなすだけの地味な独身男。意中の女性にアタックできないだけじゃなく、婚活サイトさえ満足に使えいこなせない。そのくせ趣味は空想で、頭の中で繰り広げるありえない世界にのめり込んで日々をやり過ごしている。
 

私が思い描く"こんな大人にはなりたくない"ランキング堂々の一位、”つまらなくてかっこ悪い大人”そのものである。
 
 
しかしある日突然、ウォルターが長年携わっていた雑誌「LIFE」の廃刊が決まる。外部のコンサルタントの指導でオンライン化が決まり、ウォルターが管理していた写真のネガも、もう必要なくなる。
 

そんなウォルターの長年の集大成である終刊号の表紙は、撮影したカメラマン曰く「LIFEの真髄」らしい。ウォルターはいち早くその写真のチェックに取りかかろうとするけど、なぜかその写真"25番"のネガだけが、どこにも見当たらない。そんなことが上司に知れたら自分の首が飛ぶこと間違いなしのウォルターは、25番の在り処を尋ねようとカメラマンに接触を図ろうとするが、誰もそのカメラマンの居場所を知らなかった。それもそのはず、そのカメラマン・ショーンは世界中を飛び回り危険を顧みない撮影スタイルで有名なのだ。ウォルターは自分の最後の職務を全うするため、どこにいるのか見当もつかないショーンを探しに、アメリカを飛び出して未知なる冒険をはじめる。
 
 
 
 

冒頭のウォルターは、紛れもなくつまらない男だった。会社にいても空想ばかりしていて、その中でだけ自分自身でいられる典型的な冴えない男。そんな冴えない男が、なぜ国を飛び出してまで表紙のネガを手に入れたいのか。その原動力がいまいちよくわからないまま物語は進んでいく。
 
 
道中に訪れるグリーンランドアイスランド、そしてアフガニスタン。それぞれの土地でウォルターが出会う人たちはみんな温かくてチャーミングで、一期一会という言葉がぴったり。そしてそんなキャラクターたちと同じくらい素晴らしい絶景は、全部行ってみたい!とうっとりしてしまうほど。
 
 
景色だけじゃなくて、この行き当たりばったりな旅の中でウォルターが見つけるのは、得意の空想を通り越した規模の壮大な経験と、美しい人生の奇跡たち。さまざまな体験を通して成長していくウォルターがどんどんかっこよく見えて、見終わる頃には、ウォルターみたいになれるなら大人になるのも悪いもんじゃないのかもって思わされてるからすごい。
 
 
この映画はストーリー自体もすっごく面白いんだけど、コロナ禍で海外旅行に行けない今だからこそ楽しめる。躊躇なくすぐ海外にぶっ飛んじゃうウォルターを見てるだけでストレス発散になるから。
 
 
何度目かすら忘れた緊急事態宣言下の夏、クーラーガンガンの部屋でプロジェクターに映して見てみてほしい。面白さは私とベン・スティラーが保証するから、後悔はさせないよ。
 
 
 
 
 
そしてなによりも、ウォルターが勤めるLIFE誌の社訓が好き。
 
To see the world, things dangerous to come to, to see behind walls, draw closer, to find each other, and to feel. That is the purpose of life. 
 
" 世界を見よう。危険にも立ち向かおう。壁の裏側を見に行こう。もっとお互いを知って、感じよう。それが人生の目的だから。 " 
 
 
本当はもっと語りたいシーンや好きなセリフがたくさんあるんだけど、全部ネタバレになっちゃいそうだから我慢。
 
 
 

埋もれてしまった作品。グランド・アーミー

全裸監督のシーズン2の配信が始まり、Netflix Japanの広告と、あのフレーズを再び目にして思わず心の中で、別に待ってないです。と呟いてしまった。

 


Netflix Japanよ、落ち着いてよく考えてみてほしい。なんで令和を生きる私たちが、昭和のAV監督の半生を見せられなきゃいけないのか。そういう作品たちの陰で、どれだけ沢山の作品が埋もれているのか。

 

 


とはいえこれから私が紹介したい作品が打ち切りになってしまったのには日本ではなく本国Netflixに責任があるので、全裸監督を責めるのはこれくらいにしておこう。

 

 

 

そう、日本とは比べ物にならないほど、本国Netflixの罪は大きい。今まで一体何度、私の好きな作品が無かったことにされてきたか。最近だと「ノット・オーケー」。あくまでシーズン1は序章ですみたいなストーリー構成にしておいて、シーズン2は打ち切りになってしまった。それで「オーケー」を出したネトフリ幹部に対してこちらが「ノットオーケー」ですと言いたい。まあ、この打ち切り地獄に関しては卒論のテーマにできそうなほど書けてしまうのでこのくらいにしておこう。

 

 

これから紹介する作品はNetflixオリジナルドラマ、グランド・アーミー。

 

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長ったらしい前置きの通り、この作品は制作予定だったシーズン2が打ち切りになり、現在配信中のシーズン1で終了ということになってしまった。

 


舞台は2020年、NYの高校。生徒たちは、その日も普段どおりの学校生活を送っていた。しかし突然、校舎付近の建物で大きな爆発音が起きる。混乱に包まれた学校とブルックリンの街中で、生徒たちが抱える問題が徐々に浮き彫りになっていく。

 

 

爆発事件の犯人と同じ中東系の血筋を持っていることで他人の目に過敏になり、自身のセクシュアリティを誰にも明かすことができない生徒。中国にルーツがあるのに、ユダヤ人養親に育てられたことで自分のアイデンティティを見失っている生徒。優秀でやりたいこともあるけど貧しさゆえに親に打ち明けられない生徒。当たり前のように蔓延る黒人差別に立ち向かう生徒。そして、小さなきっかけから性被害者となり、それを1人で抱え込む生徒。

 

 

 

他人からしたら大したことじゃないのかもしれないけど、自分にとっては人生を左右するほどに重たく大きくて、押しつぶされそうな悩みに立ち向かう高校生たちの物語。

 

 

2020年が舞台ということもあり、街中のラジオから聞こえてくる"新型コロナウイルス"というワードや、"I can't breathe"と叫ぶ生徒たちなど、「昨日撮影した?」ってくらいまさに"今"起こっているかのような演出が見事で、物語の世界に没入できる。

 

 

 

また賛否両論生まれそうな事件を描くことで視聴者にも問題提起しているので、見る人によって感想や思いが全く異なるものになるのも、この作品のいいところ。

 

もう続きを見ることは叶わないけれど、シーズン1だけでもかなり楽しめるし、フェミニズムがしっかり描かれていたりと色々と考えるきっかけになると思うのでたくさんの大人に見てほしい!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

余談だけど主人公ジョーイ役のオディッサ・アジオンはジェイデン・スミスの元恋人。

 

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私がこのドラマに出会ったのも、インスタにたまたま上がってきたこちらの写真で彼女に一目惚れしたのがきっかけ。(コメントでは"terrible outfit!"と書き込まれていたけど...可愛くない?)

 

この作品は打ち切りになってしまったけど、彼女の次作品にもひっそり期待中。かわいい。

 

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大好きな映画。レディ・バード

 

高校生のとき、自分は卒業したら絶対に東京に行くんだと信じて疑わなかった。

そのために必死に勉強したし、東京という、なんでもありそうで実は何にもない街に、とてつもなく大きな期待を抱いていた。

 

今私がいる場所は、本来私がいるべき場所じゃない。別に私は何者でもないけど、東京なら何者かになれるのかもしれない。

 

そんな幻想を抱いていた当時の私が、この作品、レディ・バードの主人公だった。

 

よく映画の宣伝文句に「これは、あなたの物語。」みたいなのってあるけど、たいてい全然私の物語じゃなかったりする。

だけどレディ・バードは、紛れもなく私の物語で、私だった。

 

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2002年、カリフォルニア州サクラメントに住む高校生・クリスティン。彼女は自分の本名を嫌い、そのかわりに「レディ・バード」と名乗る。つまらない地元を早く抜け出したくて、高校卒業後はニューヨークに進学することを夢見ているけど、金銭的には厳しい。親には地元で奨学金を借りれるところに進学してほしいと言われるけど、もちろん聞く耳なんて持つわけがない。そんな閉塞的で複雑な家庭環境に嫌気がさして憧れの男の子と仲良くなるために背伸びしてみたり、自分のことを理解してくれない母親と喧嘩してみたり、でもすぐ仲直りしたり。等身大のレディ・バードの、高校生活最後の1年間の物語。

 

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まず、この作品はあのグレタ・ガーウィグがメガホンを取っており、サクラメント出身の彼女は2002年当時高校生だった。つまり、この作品は彼女の自伝的要素が多く含まれている。

 

「フランシス・ハ」(いずれこの作品も紹介したい!)を見てから彼女の虜の私はそれを知った時、「え、てことは私、あのグレタと同じような高校生活送ってたってこと?さすがじゃん...」って嬉しくなったりもしたけど、この作品がめちゃくちゃ評価されていることを考えると、たぶんみんなある程度共感してるんだと思う。残念。

 

 

その"みんながある程度共感できる思春期特有の葛藤"を抱えるレディ・バードだけど、彼女はこの1年を通して大きく成長することになる。今まで目を逸らしてきた現実と、同時に打ち砕かれる幻想。その上で手に入れた、見慣れているようで全く新しい景色を眺めた時の表情は圧巻。

 

なんでもない田舎町として描かれていたはずのサクラメントが、どうしようもなく綺麗で素敵な街に見えてしまうラストには思わず涙。

 

思春期を経験したすべての大人に捧げたい一本。

 

 

 

 

 

 

ちなみに憧れの男子・カイルを演じるのはティモシー・シャラメなんだけど、普通ティモシー・シャラメが住んでいる土地を離れたいと思うか?その点だけはレディ・バードとわかり合えない。

 

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見えない世界の話。POSE

 

 

6月に入って、SNSで虹色の旗を振り街を歩く人々を何度となく見かけるようになり、彼らのコミュニティの結びつきの強さに、日々羨望の眼差しを注いでいる。

 

これから紹介するPOSEは、80年代のニューヨークで、そんなLGBTQ+コミュニティで戦った人たちの物語だ。

 

POSEを見始めたきっかけは、ただひとつ。

ライアン・マーフィーが製作総指揮だから。

2010年、一世を風靡した学園ドラマgleeでも制作総指揮を務めていた彼は、多様な人種、セクシュアル・マイノリティ、身体障碍者を繊細に、かつごく普通に描き切っていた。

そんなイケイケなドラマをみて小学校時代を過ごした私は、メディアで描かれるマイノリティの在り方を常に意識しながら作品を楽しむ癖がついていた。ハリウッド映画に出てくる、あるいは一切出てこないアジア系の人種、"ゲイっぽい"ことを理由にいじめられる役。メインとして描かれることのない彼らのコミュニティに寄り添って、共感して、わかったつもりになっていた。

 

だけど、”女装をした男性”のことはどうだったんだろう。今まで一度も、テレビに出てきた彼らのことを笑ったことがなかったのかと聞かれたら、答えは間違いなくノーだ。だけど冷静に考えて、彼らの、彼女たちの、何が面白いのかと聞かれれば答えられない。

 

そして私は今まで見えていなかった、見ようとすらしていなかった世界の現実を、このPOSEという作品で目の当たりにすることになった。

 

舞台は1980年代後半のアメリカ・ニューヨーク。ダンスの才能あふれる青年・デーモンが、父親に隠れてバレエ教室に通っていたことを理由に家を追い出されるシーンから、この物語ははじまる。

行き場のないデーモンは、公園の広場で野宿をしながらストリートダンスを披露する日々を送っていたが、そこにたまたま通りかかったトランス女性・ブランカの目に止まる。ブランカはダンスとファッションを競う場であるボールで活動しながら日々を過ごしていたが、新しく自分のハウス(ボールで活動するグループ)を作るため、メンバーを探しているところだった。

 

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ずっと、自分たちのコミュニティを大切に、団結して声を上げる彼らのことを羨ましいと思っていた。私はそんなに自分自身に誇りを持てたことがなかったから。

だけどこのドラマで描かれる当時の彼らは、団結しないと生きていけなかったんだと気づかされた。「仲間割れしてる場合?」というセリフが頻繁にあるのも、彼らの戦う相手は目の前にいる友達や敵対する他のハウスじゃなくて、社会そのものであるということを顕著に表していた。

誇りを持たなきゃやってられない。親友が不治の病に侵されても、理不尽すぎる死に直面しても、前を向いて、ひたすらに私たちの権利を主張し続けるしかない。強くなければ生きていけなかったこの時代に、社会から疎外された彼女たちの生き様に胸が震える。

 

POSE (2018)

Netflixでシーズン2まで配信中

映画が好きな理由

映画好きを公言するようになったのは、たぶん2年くらい前。

大学生活にも慣れてきた頃、与えられた膨大な自由時間をやり過ごすために、お休みの日は新作でも旧作でも、Netflixで必ず1本気になっている映画を見る習慣がついた。

そこから自分が好きそうな雰囲気の映画にアンテナを張って、新作の公開日を書き留めたり。

気がついたら、次の休みに見る映画や見たい映画がどんどん溜まって、それを消化するのが楽しみで仕方がないほどになっていた。

好きな俳優や監督が出来て、その出演作品を数珠繋ぎで見るようになり、まだ撮影も始まっていないようなタイトルまでチェックするようになった。

 

だけど、昔から映画は好きだった。

映画の何が好きなのか聞かれると難しいけど、たった2時間そこらで、自分の知らない世界を知ることができるところだと思う。

 

私は昭和生まれじゃないし、アメリカの高校生じゃないし、宇宙飛行士じゃないし、同性愛者でもなければ、手から蜘蛛の糸が出るわけでもない。

 

だけど映画を見ると、その主人公に100%共鳴したくなる。もちろんその主人公になれるわけじゃないんだけど、スクリーンを見ている間だけはその世界で、同じ目線で、一緒に生きているような感覚になれる。その中で感じる喜怒哀楽の全てが私にとってたまらなく大好きな瞬間。

 

ヤンヤン 夏の思い出(原題:a one & a two)”で「叔父さんが言ってたんだ。映画が発明されて、人生が3倍になった、って。」

というセリフがあった。

その言葉を聞いた瞬間、まさにその通りだと、映画の登場人物が私の気持ちをそのまま代弁してくれたことに感動した。そのセリフに、私が映画を好きな理由が全て詰まっていた。


わたしは、LEONを見て深みを語れる人間にはきっと一生なれないし、なるつもりもない。

クリストファー・ノーラン監督の作品をちゃんと理解して楽しめる日も、きっと一生来ない。

ハリー・ポッターシリーズは賢者の石しか見たことがないし、スターウォーズは一作も見たことがない。その癖映画オタクを公言して知ったように語っている。もしかしたらこれって、トトロを見たことがないと漫才で威張っているかまいたちの山内よりもタチが悪いのかもしれない。


だけど私は今日も変わらずティモシー・シャラメを見て騒ぐバカ女だし、いつまで経ってもNetflixオリジナルのありえない設定のラブコメが好き。

あの作品を見ずしてこの作品は語れないとか、そういうつまらない価値観は無視して、好きな映画を見て、自分の角度から好きなように楽しむ。そしてその作品の素晴らしさを出来るだけたくさんの人に、私の文章で伝えることができて、楽しくおしゃべりできたらそれだけで最高だと思うの。

 

フォレスト・ガンプで、フォレストが母に言われる「人生はチョコレートの箱(Box of chocolates)のようなもの。開けてみるまでは中がわからないのよ。」というセリフからとったタイトルで、私が特に好きな映画の中で描かれる人生たちについて、好きな時に好きなだけ書くブログ。

 

1人でも読んでくれる人がいたら嬉しい!